2013年7月6日土曜日

日本人はこんなにも悲惨な暮らしをしている

「経済の実態を示す数字より悪いのは、国を覆っている悲観論と無力感だった。日本の国民は、政府の景気回復に対する信頼を失っていた。これは悲劇だ。日本のような偉大な経済大国が十年規模の不況に陥る必要はないし、そのような状態に甘んじるべきでもない」と。そして、日本がかくも長く、経済の停滞にあえいでいる状況に対して、「そうなるべき理由も多くなかったはずだ」と、付け加えている(『世界大不況からの脱出』三上義一訳)。大した必然性もなく、日本国民は、半ば人為的に起きたに過ぎない、克服可能な事態を、あたかも不可抗力で生じた永続的な現象のように錯覚して、自ら貧しくなる道を選び、二等国に成り下がることを受け入れ、諦め、下を向いて暮らしているうちに、多くの国民の命までもが奪われてきたのだ。

この状況にストップをかけるには、過度に悲観的な認知のワナに陥っていることを自覚し、自己否定の塊になったり自信喪失に陥ったりする必要はなんらないということを知ることである。政策ミスが政策ミスを呼ぶという悪循環が起きてしまったのも、感情論に走り、この国に何が必要なのかという認識を冷静に共有できなかったことに起因している。その間に時間を空費し、有効な手立てが講じられなかったために、ずるずると悪い状態が続いてしまい、どんどん貧しくなってしまったのだ。そうしたワナの危険を認識し、そこから脱却して、もっと前向きで、将来につながる政策運営を行っていきさえすれば、状況はがらりと好転し得るのである。

なぜ、日本人はこんなにも悲惨な暮らしをしているのか世界一の対外純資産をもつ国の国民が、大借金を抱えた国の国民よりも、どうしてこんな貧しく、悲惨な暮らしをしているのだろうか。世界一の技術力をもつ分野も、まだ多く有しているというのに、なぜ、さほど技術力もない国の後塵を拝しているのだろうか。一人当たりのGDPでみても、かつて世界一になったこともあるが、このところ順位を下げ続けている。軍事的覇権をもつアメリカは別格としても、たとえば、イタリアやスペインと、一人当たりのGDPで大差がないというのは、何とも解せないではないか。生活満足度という点では、その傾向はもっと顕著である。OECD(経済協力開発機構)のデータによれば、日本は先進国の中では飛び抜けて低く、開発途上国並みである。オランダでは九割を超える人が、十段階評価で七以上の満足度を示しているが、日本では五割程度にとどまっている。

オランダやフィンランドなどの西欧先進国では、週三十五時間勤務で、残業はなし、年間四週間の休暇をとることが義務付けられている。土日と連続してとれば、実際上六週間の休みが取れるのである。少なく働き、多くの時間を遊び、しかも、より多く稼いでいるのである。片や日本では、有休を使うのも同僚に気を配り、長い休暇を連続して取ろうものなら、白い目で見られ、勤労意欲を疑われかねない。一日二時間程度のサービス残業が当たり前で、管理職は、深夜まで残業をしても、残業代ももらえない。労働単価は果てしなく安くなる。休日出勤も珍しくない。ところが、そんなふうにゆったりと仕事をしているオランダの一人当たりのGDP(購買力平価ベース)は、スイスとほぼ同じ約四万ドルで、日本より20%以上も高く、石油産出国のクウェートよりも多いのだ。

オランダに、技術力の面でも、勤勉さの面でも、日本が劣るとは思えない。だが、現実には、日本の方が、精神的にも経済的にも、貧しい生活を強いられている。オランダやスイスといった小国とでは比較にならないというのであれば、フランスやドイツやイギリスを持ち出してもいいだろう。農業国で、経済的にはかなり苦戦をしているフランスよりも、東西統一により経済的にはお荷物の旧東ドイツを抱えるドイツや、斜陽国となって久しいイギリスよりも、一人当たりのGDPは下回っているのだ。なぜこうしたことが起きてしまうのだろうか。