2015年4月18日土曜日

従来の抹殺療法的発想が通用しない

常在微生物を、原因病原体として目の敵にするという従来の抹殺療法的発想が通用しない面が出てくる。身体の中にまったく常在菌が存在しない動物を無菌動物という。無菌動物を作るときには妊娠動物に帝王切開を行なって胎児を無菌的に取り出し、飼料や飲用水を含めて全体を無菌的状態にした、外界と隔絶された飼育箱で飼うわけである。その後、無菌動物の生活は繁殖を含めて、代々この無菌的飼育箱の中で行なわれることになる。抹殺療法的な考え方で日和見感染症を治療すると、患者から常在微生物をすべて除去したあと(実際は不可能に近いが)、この無菌動物と同じ環境で生活させなければならなくなる。

これは原理的には不可能ではないだろうが、実現はかなり困難なことである。やはり日和見感染症の治療には、患者の抵抗力を元通りにすることを試みると同時に、常在菌が根絶されなくとも、宿主が日常生活に支障を来たさないようにすることに主眼を置くべきだろう。普通の病原微生物を古典的病原体とよぶとすれば、常在微生物は日和見感染症病原体ということになる。常在菌の病原性の本質を病原微生物と対比して研究する必要があるが、常在微生物は古典的病原体に比べて個性が乏しく、標的とされる弱点が少ない。さらに宿主の抵抗力が低い状態にある日和見感染症の治療は、古典的病原体による感染症に対するものより難しいという。