2014年9月18日木曜日

問題の根源はユタの存在

キャンペーンは一九八〇年正月から始めた。「うちな女男」というタイトルで、連載開始直後から「トートーメー」に絞って連日、記事を掲載した。最初に沖縄が揺れるほど、と書いたが、私は本当に島が揺れていると感じた。記事を載せたその日の朝から、社の電話が鳴り止まなかった。「この日を待っていました」「新聞でうんと取り上げてください」。ほとんどが女性からで、電話の向こうで泣いている人も多かった。電話、手紙が新聞社に殺到した。男性からもあった。かつて経験したことがないような、一大反響が沸き起こった。ガスが目いっぱい充満した部屋にマッチの火がつき、大爆発を起こしたようなそんな状態がかなり長く続いた。

電話や手紙でこんな声が新聞社に連日届いた。「私には一人娘(小学生)がいます。生まれてからずっといっしょに住んでおり、この子も『お母さん、わたし大きくなったら結婚して男の子とお母さんといるよ』つていうんですよネ。どうして実の娘がいるのに遠い親戚から養子をもらって跡を継がさねばならないんでしょうか。一生懸命財産をつくっても、とんでもない人に財産をあげなければならないんでしょうか」(五十代の主婦、浦添市)「私たちには五人の娘があります。もちろん男の子が欲しかったのですが、運悪く全部娘だけです。でも私たちは五人の娘の中から一人はトートーメーを持ってもらおうと思っておりました。

ところが門中(始祖を共通にする父系の血縁集団)と称する親戚から待ったがかかった。トートーメーは女が持つと崇りがあるというのです。それからというものは毎日、門中ぜんぶからそろって説教です。揚句の果てには『私のところにも娘がいる(いかず後家)、二号にしてよいから、男の子を娘に産ませろ』という親戚まで出る始末です」(T・I、具志川市)予想をはるかに超える数であり、深刻さであった。禁忌を守らないとよくないことが起こる、崇りがある、と巷間、伝播の役を果たしていたのが、沖縄で「ユタ」といわれるシャーマン、霊的な能力を持つ人たちであることも問題を表面化しにくくしていた。

易者とも違って、特殊な霊力を持つといわれるユタがそういうのだから、と多くの人がトートーメーにまつわる慣習を守ってきたのである。問題の根源はユタの存在、という声も多かった。ユタは表には出ない存在である。依頼者の内面の相談に乗って生計を立ててはいるが、看板などどこにもない。だから分からない人にはまったく分からない。もちろんユタを信じず、関わりを持たずに生きている人も大勢いる。とはいえ、ユタが人の生死、生き方に深く関わっており、沖縄の裏の文化の重要な役割を担っていることは厳然たる事実だ。葬式などは沖縄でもお坊さんがことを進めてくれるが、葬式も含め、お坊さんと同じぐらいかそれ以上に大きな影響力を持っているのがユタである。

沖縄では、警察など時の権力がユタを弾圧した歴史があり、それでも現在、三千人とも四千人ともいわれるユタがいる。それはそれだけの理由があるからである。ユタのところに行き(沖縄ではユタを買うという)、ユタの判示を聞き、それを受け入れることによって心の安らぎを得て生きている人もまた非常に多い。沖縄ではユタは身近なカウンセラーの役目も果たしている。私はユタを直接、訪ねて取材もした。どういう場所でどんなことをしているのか、様子を見に行ったのである。目の前の女性はごく普通の人だった。新聞記者です、と名乗ってから取材を始めたが、しばらくすると、私の顔つきや言葉遣いがどうも変だと思ったのであろう、「あんたはどこの人ね」と聞いてきた。