2014年4月17日木曜日

貨幣余剰と労働力余剰

郷鎮企業は、中国全体の過剰労働力の解消にも大きく貢献しうる資格をもっている。実際のところ、中国の総労働力のうち都市の国営企業を中核とする非農業労働力は、一九八三年の一億一五一五万人から一九九二年の一億四五一〇万人へとこの間二九九五万人増加したが、既述したごとく同期間の郷鎮企業労働力の増加数は七三四七万人であり、それを大きく上まわった。

もっとも、郷鎮企業は全国一様に発展しているわけではない。大都市圏、ならびに大都市圏を後背地としてもち、かつ豊かな農業地帯を擁するという地理的条件をもったいくつかの沿海諸省に集中している。その典型例が上海経済圏に近い江蘇省南部である。ここは一九七〇年代後半から農村工業化が急速に進み、それにともなって余剰労働力が激しく流動化した地域であり、「蘇南モデル」として全国農村の熱いまなざしを受けている地域でもある。

郷鎮企業にこのような拡大をもたらしたのは、農村とのあいだに横たわる労働生産性の格差である。郷鎮企業の労働力I単位当たり生産額、すなわち労働生産性は一九九二年において一万七四六六元であり、同年の農業の二六〇七元を六・七倍も上まわった。農民収入に占める非農業収入比率は一九七八年の七・〇%から一九九二年には三〇・八%へと上昇した。農民が農業への投資を縮小し、郷鎮企業を中核とした工業部門へと、余剰の資金と労働力を激しい勢いで投下しつづけたことの帰結である。

郷鎮企業の技術は伝統的なものが多く、高い労働集約性がその特徴である。そうした特徴のゆえに、郷鎮企業は農業部門からの強い労働力吸収を可能にしている。そしてまた、このことが土地に対する強い人口圧力を緩和して農業生産性を上昇させ、貨幣余剰と労働力余剰をさらに郷鎮企業に向けて吐きだす条件を醸成するという、「累積的経緯」を生むであろうことが期待できる。

もちろん郷鎮企業の生産物は、農村の最終需要と直接的な結びつきをもっている。こうして郷鎮企業の生成は、自由な要素市場(資本・労働市場)と商品市場(財市場)を介在して、農業部門と工業部門とのあいだに有機的な連関(リンケージ)をつくりだす新単位として生まれてきた。