2013年8月28日水曜日

薬になる伝統野菜

イラブー汁は決して美味しいとは言えない。しかし、全身ヤケド状態の私は、薬と思って食べるしかない。もっとも、風邪を引いたときに何度かヒージャー(ヤギ)汁を食べさせられたが、それに比べるとはるかに食べやすい。ちなみに月桃というのはショウガ科の植物で、強い抗菌抗カビ作用があることで知られる。はじめて沖縄で取材した頃だ。民宿のおばさんに昼食用のおにぎりを月桃の葉で包んでもらったが、そのとき、この葉で包むと真夏でも三日は腐らないと言われた覚えがある。それはさておき、驚いたのが翌日だった。全身水ぶくれになると言われて覚悟していたのに、なんと日焼け程度でおさまったばかりか、三日目には蛇が脱皮するようにズルッと皮がむけたのである。「これがクスイムンか」と、納得することしきりであった。

「クスイムン」は、「薬になるもの」「体によいもの」といった意味で、そういう物を食べて健康な体をつくろうという「医食同源」の思想にもつながる。沖縄産シークワーサーで血糖値が下がった。わが身にまつわる出来事をもう一例挙げる。恥ずかしながら、これは私か健康診断で知った空腹時の血糖値だ。一二六以上を糖尿型というらしいが、実のところ、二〇〇六年の秋には一三〇近かったように思う。これを下げるために、できれば薬より食事療法でと栄養士に相談したのだが、食事はとくに問題はないという。ただ、晩酌はやめたほうがいいと言われて断酒したが、逆にストレスがたまって仕事に影響するようになった。はたと困ったとき、ある沖縄の医師からシークワーサーが血糖値を下げるらしいと聞かされた。最初は安い台湾産でもいいだろうと、水で薄めて飲んでみたが、数力月経っても一向に数値の下がる気配はない。

「所詮、民間療法なんてこんなものだ」と諦めかけたとき、たまたま沖縄産のものをいただいた。飲んでみたら味も香りもまったく違う。これが〇七年一月のことである。約二〇皿リットルをコップ一杯の水で薄めて毎朝飲むだけのことだが、三月ほどしてから、検査のたびにわずかずつだが下がっていくのがわかった。〇九年の一月で一〇〇を切ったから、今は完全に正常な域だ。沖縄には身近な食材が薬になるという考え方がある。医食同源と同じような意味だ。先にも述べたが、これをクスイムンという。クスイムンという考え方は、おそらく中国から伝わったのだろうが、本土に比べ、生活文化にまで定着したのは、それだけ島には薬になる食材が多いからだろう。

たとえば、先に汁をすすったイラブー(ウミヘビ)だ。久高島や宮古島、石垣島などが産地で、とくに久高島は漁獲権をノロ(神女)が持っていて、猛毒を持つイラブーを手づかみで獲ることで知られる。かつては上流階級で珍重され、琉球料理のなかで最高の料理と言われた。ミネラルやビタミンなどが豊富で、体力を消耗したときや免疫が弱つたときに食べるといいとされている。たしかにイラブー汁は、体力が弱っているときなど効果てきめんだ。山羊汁はスタミナ料理の代表例で、血液の流れをよくする反面、高血圧の人は禁じられている。ただ、沖縄でもこれらを食べる機会はそう多くない。

普段の食事でよく使われるのが伝統野菜だろう。実際、さまざまな野菜に薬としての効果があることが伝えられているが、そのいくつかを、私かこれまで沖縄のオバアたちから聞いた話でご紹介する。沖縄でもっともよく食べられているのがゴーヤだ。ゴーヤのあの苦みをつくり出しているのがモモルデシンで、肝機能を高める作用や胃腸を刺激して食欲を増進させる作用がある。「夏バテで食欲がないとき」にはチャンプルーなどにして食べ、葉や茎はアセモの予防として風呂に入れたという。ゴーヤの次によく消費されているのがパパイヤ。本土と違い、青いパパイヤを野菜として使うのだが、「子供を産んだあと、乳の出がいいというので必ず食べさせられた」という。実はパパイヤにはビタミンCやGABA(ギャバ)と言われる脳細胞の代謝機能を促進したり、血圧を降下させる物質が多く含まれている。

長寿のための健康食講座(第10回) 沖縄と長寿の関係
http://www.caresapo.jp/senior/meal/longlife/83dn3a000000azp1.html

沖縄料理、健康の秘訣とは? ふみこの のんびりブログ/ウェブリブログ
http://fumikofelice.at.webry.info/201007/article_5.html