2012年6月15日金曜日

初公判のJR西・前社長「事実を包み隠さず・・・」

「事実を包み隠さず明らかにする」。JR福知山線脱線事故で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の山崎正夫・前社長(67)は、神戸地裁で21日始まった公判で、裁判に臨む決意をこう明かした。

事故から5年8か月。家族はなぜ逝ったのか、答えを探し続けてきた遺族らが裁判に求めるのも、事故の真相だ。法廷で599人にのぼる全被害者の名前が読み上げられる間、手を合わせ、涙をぬぐう遺族ら。山崎被告の無罪主張には落胆しながらも、その表情に浮かぶのは、憎悪や悲しみばかりではなかった。

午前10時、初公判は神戸地裁で一番大きい101号法廷(112席)で始まった。紺色のスーツにグレーのネクタイ姿の山崎被告は、遺族や負傷者で埋まった傍聴席に向かって深々と頭を下げ、弁護人の前の被告席に座った。

人定質問で岡田信裁判長に職業を問われると「現在は嘱託で(JR西日本に)勤務しています」と答えた。

起訴状朗読で、検察官が被害者全員の名前を一人ずつ読み上げた約30分間、被告席で、被害者名を記した一覧表に目を落とした。

罪状認否では、傍聴席、検察官席、裁判官席に深く頭を下げ、「一言おわびを述べたい」と切り出した。「遺族、負傷者の悲しみや苦しみを目の当たりにし、申し訳ない気持ちでいっぱいです。亡くなられた方々のご冥福と、おけがをされた方の一日も早いご回復を心よりお祈りします」と話し、改めて一礼した。

続いて弁護人から受け取った書面の朗読を始めた。起訴事実について「事実とは全く異なる。そのような決めつけは非常にショックだ。裁判で何としても潔白を明らかにしたい」と無罪を主張した。その上で「質問にも真摯(しんし)に答えたい。そのことが被害者、遺族の皆さんの願いでもあると信じている」と一気に読み上げた。

脱線事故の直後、子会社社長から約7年ぶりにJR西に呼び戻され、翌年、社長に就任。安全対策を重視した社内改革を打ち出し、被害者対応に力を注いだ。

「ご遺族と向き合えなければ、JR西の再生はあり得ない」。そう繰り返し口にし、これまでに犠牲者の約7割を弔問した。

昨年7月、業務上過失致死傷罪で在宅起訴され、翌月、社長を辞任。その後、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(現・運輸安全委員会)の情報漏えい問題に関与したことが明るみに出て、遺族たちの怒りを買った。